CO₂検出におけるサイズの壁を打ち破る

執筆者:Marco Gysel(CO₂センサー事業部製品マネージャー)
 

センシリオンは、環境センサーソリューションにおけるイノベーションのパイオニアであることを再び証明します。「SCD4x」は、わずか1立方センチメートルのスペースに収まる初の小型CO₂センサーです。この破壊的イノベーション製品は、光音響センサー技術の原理に基づいており、最小限のサイズで最大限の性能を発揮します。本製品は組み込みとアプリケーションに関して、数え切れないほど多くの新たな可能性を切り開きます。「SCD4x」は、他に類を見ない価格性能比であるため、特に連続生産やコスト重視の用途に適しています。

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「SCD30」(NDIR)と「SCD4x」(PASens®技術)のサイズ比較/出典: Sensirion AG

環境への意識の高まりは、人々の生活、移動手段、食事だけでなく、建物の設計にも影響を与えています。近代的な住宅は、主に暖房設備に使用される自然資源を低減するために非常に高いエネルギー効率を目指してします。その結果の1つとして、気密性の高い建物を求める傾向が生まれ、旧来の建物より断熱性が向上しています。気密性の高い建物には、壁、屋根、窓、隙間などを通じた換気効果がほぼないため、屋内の空気質に悪影響を与えます。そして、室内空気質が低下すれば、人々の生産性や健全性に悪影響を与えます。そのため、最終的には健康的で生産性のある室内環境のために、定期的に新鮮な空気を送り出す有効な換気システムが必要になります。換気システムは、空調と新鮮な空気を送り出すために大量のエネルギーを必要とするため、システムの高いエネルギー効率を保証することが重要になり、これは現在の需要に基づいて換気を制御する換気戦略で実現できます。
 

CO₂濃度やその他の室内汚染物質を高める主な発生源は人であるため、新鮮な空気に対するニーズは室内にいる人数とその活動(調理、スポーツ、レクリエーションなど)の影響を受けます。人が密閉された建物の中にいる場合、その室内のCO₂濃度は上昇し、室内空気質は悪化します。そのため、CO₂濃度が空気質の指標および換気システムの制御パラメーターとして推奨されています。室内空気質の測定に基づいて、需要志向で換気を有効にできるため、健康的で快適な環境を確保しながら、高いエネルギー効率を保証します。
 

センシリオンは、独自のPASens®技術に基づく新しい「SCD4x」センサーで、CO₂センサー市場に革命を起こしています。PASens®技術は光音響測定原理を活用して、センサー性能に妥協することなく、CO₂センサーの小型化を実現しています。その理由は、現在一般的に使用されているNDIR測定原理とは対照的に、センサーの感度が光共振器のサイズと無関係であるためです。これによって、コスト効率がよく、柔軟でコンパクトな統合が可能になり、これまで十分な設置スペースがなかった用途でCO₂センサー技術を活用できるようになっています。さらに、統合する電気部品の数が劇的に減って、非常にコスト効率のよいコスト構造になり、価格も大幅に下がっています。センサーの小型化と魅力的なコスト構造により、小型換気システム、換気装置、エアダクトプローブ、空気清浄機、サーモスタット、空調装置、空気質モニターなど、「SCD4x」を新製品や大量生産を伴う用途に統合できる新たな可能性が数多く広がっています。
 

室内空気におけるCO₂濃度上昇の影響

二酸化炭素は、人間の代謝で中心的な生成物の1つであり、これは吸収した食物が炭水化物、脂肪、タンパク質に変換されて、他要素の中の酸素供給の元でCO₂になり、呼吸で再び送り出されます。これは屋外ではすぐに薄まりますが、密閉された室内ではCO₂濃度が急速に上昇する可能性があります。特にセミナーエリアや教室など人の出入りが激しい場所や、タクシーなど狭い屋内スペースでは、CO₂濃度がわずか数分で10倍に上昇する可能性があります。大気中のCO₂濃度は比較的場所に関係なく400 ppm(百万分率)前後ですが、換気が不十分な室内であれば、5000 ppmにまで達する場合があります。CO₂が溜まると、代謝を悪化させ、すでに1000 ppmのCO2濃度で眠気や集中力の支障が発生する可能性があります。
 

人間の代謝にCO₂が特定の影響を及ぼすため、この分子を選別して測定することが適切な方法になります。ここでCO₂の場合は、個別の原子の相対的な振動による励起を選別することが適しており、これは赤外線の吸収によって実現できます。図1では、大気中で発生する標準的なガスの各吸収帯を示しています。

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図1:大気中で発生する標準的なガスの吸収帯(出典: Hodgkinson & Tatam, Meas. Sci. Technol. 24(2013)012004)

このように、4.26 μmのCO₂は非常に顕著であり、その他のガスは大部分が重なることのない吸収線となっており、選別測定に非常に適していることがわかります。センシリオンの「SCD30」などのNDIRベースのガスセンサーとは対照的に、光音響センサーは透過光の量を検出しませんが、ガスが吸収する光の量は検出します。この処理は光音響効果を利用して、間接的に実行されます。この効果は、一般的にガスの光吸収後の圧力上昇を示します。
 

赤外線照射で励起された分子は、他の分子に振動励起を伝送し、局地的な温度上昇など並進運動エネルギーの増加につながります。密閉されたボリュームでは、並進運動エネルギーの増加は圧力の上昇につながり、圧力トランスデューサーで検出できます。非共振光音響ガスセンサーの一般的な設計を図2に示しています。

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図2:非共振光音響ガスセンサーのセットアップ図(出典:Sensirion AG)

PASens®技術

光音響センサーの主な部品は、狭帯域の赤外線を照射する、大部分が密閉されたボリューム、測定ボリューム内の圧力変化を検出するマイクロフォン、周辺環境との換気を可能にする測定セルの開口部です。狭帯域の赤外線は、通常広帯域エミッターで生成され、光学バンドパスフィルターを通じて光を放射します。
 

「SCD4x」などの光音響センサーで信号が生成され、次のようにCO₂濃度が判定されます:
 

  • 赤外線の光源がオンになり、測定ボリュームに狭帯域の赤外線を放射します。これによって、測定するガス分子(ここではCO₂)の振動励起につながります。
  • すぐに(通常は数ミリ秒後)振動が弱まり、温度上昇につながって、圧力上昇に変わります。
  • ガス分子の励起と脱励起の時間と比較して、測定チャンバー内の圧力がすぐに釣り合うため、測定チャンバーに接続したマイクロフォンで圧力上昇を記録できます。
  • 数十ミリ秒後、光源がオフになり、環境での測定セルの熱化によって温度の次に圧力が下がり、システムは初期状態に戻ります。
     

生成された信号の信号対ノイズ比を上げるために、上記の測定サイクルが複数回繰り返されます。そのために、光源が変調され、生成される周期的な圧力変化は音波とみなされます。電球が最初の選択肢だった「SCD30」とは違い、「SCD4x」にはセンシリオンが開発したMEMSベースのエミッターが選ばれました。これは簡単に変調でき、アクティブに制御できるため、長期安定性が向上しています。小型化および環境の影響からセンサーを保護するために、「SCD4x」のすべての部品は測定セル内に取り付けられています。図3を参照してください。

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図3:PASens®技術に関わるセンシリオンが開発した主な部品(出典:Sensirion AG)

まとめ

センシリオンが再び環境検出のイノベーションの最前線に立ち、より健康的で生産的な環境を創ります。「SCD30」によるCO₂センサー技術のサクセスストーリーは、「SCD40」でこれらのセンサーのサイズの壁を打ち破ったことで引き継がれます。「SCD4x」は従来のNDIRベースのセンサーと比較しても性能に妥協することなく、そのサイズと価格によって家庭内のさまざまな装置への統合を可能にした初めての小型CO₂センサーです。図では、センシリオンの革新的なCO₂センサーソリューションを設置できる典型的な用途/装置を示しています。

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暖房、換気、空調での用途の概要(出典:Sensirion AG)

環境測定のこの新しい技術は、環境センサー技術の分野におけるセンシリオンの専門的ステータスを強調しています。まもなく発売される「SCD4x」CO2センサーの高度なイノベーションについても、さまざまな受賞候補として注目されています。このセンサーは、すでにSensors Expo 2019の「Best of Sensors」賞を受賞しており、AHR 2020展示会の「Most Innovative Product」部門およびAMA Innovation Award 2020でファイナリストとなりました。

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