執筆者:Daniel Träutlein(医療事業部製品マネージャー)
かつては、呼吸装置に搭載するフロー検出技術を決定するには、複雑なプロセスが必要でした。しかし、近年は、完全校正済みかつ温度補償された出力信号を提供するフローセンサーソリューションが登場しています。
執筆者:Daniel Träutlein(医療事業部製品マネージャー)
かつては、呼吸装置に搭載するフロー検出技術を決定するには、複雑なプロセスが必要でした。しかし、近年は、完全校正済みかつ温度補償された出力信号を提供するフローセンサーソリューションが登場しています。

近位フローセンサーは、病院、在宅医療の現場、救急病院において、挿管された患者や非侵襲的な換気を行う患者の呼吸器に幅広く使用されています。新生児から成人までの幅広い用途に対応するため、近位部のフローセンサーに求められる要件は多様かつ難易度が高いのが特徴です。特に重要なのが、信頼性とコスト効率、そして長期安定性です。また、患者は病原体に感染する可能性の高い空気に接触するため、衛生的な減菌・殺菌に関して特に高い要件があります。
蒸気滅菌などの方法で滅菌可能なセンサーソリューションはすでに多数発売されています。これらのセンサーはすべて、次の2種類の測定原理のいずれかを使用しています:熱線風速計の原理、あるいはオリフィスまたは低流量レンジでの感度を高める可変オリフィスを介した微差圧測定。いずれの原理にもメリットがあります。ただし、センサーの原理にかかわらず、殺菌・滅菌の工程では問題が発生しやすく、洗浄や滅菌の際にはセンサーの損傷を防ぐ注意が必要です。
センサーを再利用する場合、安全かつ費用対効果(総所有コスト)の高い方法は、使い捨て/各患者専用の近位フローセンサーです。センシリオンは、業界初のMEMSベースの使い捨て近位フローセンサーを提供します。現在、一般的に使用されている熱線センサーは、使用前の校正が必要ですが、SFM3300センサーは完全校正済みです。完全校正済みなので、病院スタッフの作業負担を軽減し、他のタスクに集中して取り組むことができます。
人工呼吸器の場合、圧力検出だけでなく、フロー検出も重要な課題です。わかりやすく説明するため、以下で陽圧式人工呼吸器を取り上げます。患者は、人工呼吸器をマスク(非侵襲性)または挿管や気管切開(いずれも侵襲性)で装着します。最近の人工呼吸器は、圧力制御、フロー制御など、用途によってモードを変えられます。自発呼吸ができない患者の場合、次の吸気のトリガーをタイマーで設定できます。しかし、自発呼吸が可能な患者の場合、設定が複雑になります。後者の場合、機器と患者の間の同期を取るには、患者の呼吸開始を早急に検出する必要があります。そのためのセンサー位置とそのトリガー感度に及ぼす影響については後ほど説明します。
呼吸開始のトリガーだけでなく、体積、フロー、時間、圧力などの値に基づいて、吸気の終了も決定しなければなりません。これを上限変数と呼びます。また、いずれかの値に基づいて、トリガーと上限の間でフローを制御する必要もあります。
患者の呼吸トリガーの設定は、圧力信号またはフロー信号のいずれかに基づいて設定できます。圧力信号をトリガーとして使用する場合、要望される感度を達成するには難易度が高くなります。これは主に、圧力センサーが時間の経過とともにドリフトしやすいことが原因です。そのため、誤作動のない信頼性の高いトリガー感度を確保するには、頻繁にオフセット補正を行う必要があります。
その優れた安定性のおかげで、近距離配置のフローセンサーにより迅速な応答と高い感度を得ることができます。フローセンサーを呼気側に配置した場合、安定性と感度は同じですが、呼気管内のフローの移動時間によって信号の検出に遅れが生じます。また、呼気のフロー検出は、近位センサーの構成と比較すると、粘液による汚染の可能性を最小限に抑えられるなどのメリットがあります。近位センサーは呼吸回路の下方にあるリークの影響を受けにくいのが特徴です。
さきほど説明したように、体積、フロー、圧力、時間に基づいて、吸気期間を終了できます。また、トリガーから吸気上限までの間のフロー制御についても同様です。たとえば、病院のスタッフが行う人工呼吸器の設定では、時間トリガー式の吸気や上限を設定できます。この場合、その2点間でフローを制御する必要があります。また、トリガー、上限、制御にそれぞれのパラメーターを設定することもあります。パラメーターの組み合わせは、医学的な根拠に基づく場合もあれば、単に人工呼吸器を設定するスタッフの意向に基づく場合もあります。圧力、フロー、体積の値を経時的にモニタリングすることで、肺活量の低下など、患者の状態の変化を観察することができます。
圧力トリガーによる制限は、呼吸回路のコンプライアンスに大きく影響されます。回路を交換したり、チューブやホースの位置を変えると、コンプライアンスが変化します。たとえば、極端にチューブが曲がっている場合、影響が生じる可能性があります。
呼吸回路のコンプライアンスは、フローセンサーの配置が近位である場合、フロー信号の測定と積算値にほぼ影響を及ぼすことはありません。しかし、吸気フロー検出の場合はこれに該当しません。このような場合、圧力とフローの信号があれば、コンプライアンスの影響を明らかにすることができます。近位フロー検出は、患者から離れた場所にある加湿器や噴霧器などの接続によるリークの影響を受けにくいのが特徴です。
今後、人工知能搭載により、スマートで適応性の高い換気モードが増えていくことは間違いありませんが、上記の圧力、フロー、体積、時間に基づいたモードが基本になるでしょう。
ここでは、シングルリム呼吸回路とデュアルリム呼吸回路を区別する必要があります。デュアルリム呼吸回路の場合、吸気経路と呼気経路にはそれぞれ別のチューブが装着されます。吸気と呼気のチューブはYピースで合流し、患者に近い数センチのチューブは1本になります。吸気の際は、空気が吸気チューブからYピースへ、そこから患者へと流れます。呼気の際は、空気がYピースに流れ、吸気チューブからの空気の逆流を防ぐフラップが閉じて、呼気チューブが開きます。シングルリム呼吸回路の場合、呼吸器と患者をつなぐチューブは1本のみです。患者の前には呼気弁があり、吸気の際に人工呼吸器からの空気を患者に流します。呼気の段階で、同じバルブが開き、空気が周囲に放出されます。

いずれの場合も、吸気流量を測定するフローセンサーは、湿度の高い空気や汚染された空気に接触しないよう、機械の中に装着できます。シングルリム呼吸回路の場合、近位フローセンサーを使用しなければ、呼気フローを測定できません。近位フローセンサーを使用しない場合、吸気フローしか把握できず、使用できる換気モードが限定されてしまいます。デュアルリム呼吸回路の場合、近位または呼気のいずれかのフローセンサーソリューションを利用することができます。近位フロー検出は、患者の近くに設置されるため、トリガー感度の点でメリットがあります。ただし、距離が近いことで、粘液の混入などの問題も生じやすくなりますが、呼気側に設置することで制御できます。
現在、ほとんどの人工呼吸器メーカーは、新生児患者に対して近位構成を採用していますが、必要に応じて特殊な新生児用センサーを使用します。一方、成人患者の場合は、近位フローセンサーを使用するメーカーもあれば、呼気側装着タイプを使用するメーカーもあります。
SFM3300シリーズのフローメーターは、近位装着と呼気側装着のいずれでも使用できます。近位装着の場合は、トリガー感度が高くなり、呼気側に装着することでさまざまな吸気条件をコントロールし、精度の高いフロー測定が可能になります。