発熱量: マルチガス時代の料金測定

執筆者: Konrad Domanski, センシリオン社 ガス測定ソリューション部門 プロダクトマネージャー, Andreas Rueegg, センシリオン社 研究開発部門 エンジニア 

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天然ガスの利用者には、これまではkWh単位で測定されたエネルギー使用量に対して料金請求されてきました。ただし、この消費量を測定するために使用されるガスメーターは、通過するガスの体積量を測定することしかできませんでした。現在使用されている大半のメーターは、温度と圧力の変動に必要な補正を考慮に入れて体積を測定することはできません(これらは公益事業会社によって統計に基づいて適用されています)。実際のエネルギー消費量を知るためには、ガス販売業者は、各消費者が受け取るガスの標準体積量と発熱量(CV)を知る必要があります。  

 

エネルギー = 標準体積 * 発熱量 

 

今日、この問題は、グリッド内の注入地点にガスクロマトグラフ(GC)を設置し、消費者に供給されるガスの温度と圧力について一般的な仮定を立てることで解決しています。同様に、注入地点の先ではすべての消費者が同じ品質のガスを受け取ることが想定されています。従来、CVはLガスの30 MJ/m3からHおよびLNGガスの45MJ/m3まで変化します。実際には、特定の地域に1種類のガスしか分布していないため、この範囲は一般的に小さくなります。Hガスの場合、大抵CVは37〜43 MJ/m3の範囲内にあります。 

 

体積量とCVを別々に測定することにより、ガスメーターを簡素化することができます。これは今までは最も費用対効果の高いソリューションでした。OIML R140は、CV測定に3つの精度クラスを規定しています。A(0.5%)、B(1%)、C(2%)の3つです。現在、ほとんどの国では、クラスAまたはBの計器が料金請求目的で使用されています。 

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図 1 QMicro(センシリオン)で作成された図のようなガスクロマトグラフは、クラスAまたはBの精度でガスの発熱量を正確に測定する上で信頼できます。この特定のクラスAモデルは、天然ガスと水素の混合物に対して動作します。

世界のエネルギー供給において、化石燃料から再生可能エネルギーへの切り替えがトレンドになっています。この切り替えがどう天然ガスに関わるかというと、まず、純水素に切り替わる前に、天然ガスがバイオメタンと水素に徐々に置き換わっていくという形がとられると予想されます。その結果、多くの国が水素戦略を公表し、移行に備えるための政策を実施しており、事実、英国では2025年以降に販売されるすべてのボイラーが水素に対応しなければならない予定です。同時に、再生可能ガス、特に天然ガスとは特性が大きく異なる水素への置き換えに対するネットワークの準備状況をテストするために、世界中で複数のパイロットプロジェクトが行われています。 

 

再生可能ガスの生産は、現在のガス供給よりもはるかに分散化されるでしょう。バイオメタンは、廃水処理プラント、埋め立て地、または大規模な農場でバイオマス燃料から生成できます。水素は、再生可能エネルギー発電所で、バイオマスから、または水の電気分解によって余剰エネルギーを水素に変換している小規模電力生産者の手で、エネルギー貯蔵媒体として生産することができます。これらの再生可能ガスのグリッドへの導入は、分岐点の数を大幅に増やし、エンドユーザーに分配されるガスの多様なCVにつながると予測されます。

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図2 水素とバイオメタンの注入ポイントが存在する場合、都市全体に分布するガスの発熱量は大幅に変動する可能性があります。

イタリアメーター製造協会 (ACISM; Association of Italian Meter Manufacturers) は2020年にイタリア国内の2つのバイオメタン注入ポイントに近いガスの発熱量を調査しました。CO2含有量が増加し、複雑な炭化水素ガスが不足しているため、通常バイオメタンは天然ガスよりもCVが低くなります。その調査では、注入ポイント付近で測定されたCVは、それらの場所で顧客に請求される値よりも平均して5~6%低いことが発見されました。この結果から、現在のエンドユーザーの場所から離れたシティゲートにおける非常に正確なクラスAまたはB(0.5%または1%)の測定方法では、再生可能ガスの注入ポイント付近のユーザーに対して公正な請求が行われていないことが分かりました。このようにポイントの数が増え、また特に水素が混合されると(水素のCVは天然ガスの3分の1にすぎません)、問題はますます深刻になり、より多くの利用者に影響が及びます。 

 

この問題の解決策の1つは、すべての新しい注入ポイントにGCを導入し、ネットワーク全体に分散されたガスのCVをモデル化することです。各地域の新しい注入ポイントの数によっては、このアプローチで十分な場合があります。しかしながら、1ユニットあたり約25,000ユーロの費用に加えて運用および保守コストがかかるため、このアプローチのスケーラビリティは制限されます。 

 

他に実施可能なアプローチとしては、グリッド内のガスのCVを正確に測定し、それを既存のスマートメーターから得られたデータ(流量、温度、圧力、場合によっては他のガス特性)と組み合わせて、各消費者のCVをシミュレートすることです。このようなアプローチに対して、デモンストレーションが待ち望まれており、また顧客への料金請求にMIDの認可が必要です。

 

最も包括的な解決策は、注入ポイントより先のユーザーに非常に近い地点でCVを測定することです。最終的には、メーター自体にエネルギー消費量を直接測定させることです。  

 

いくつかのアプローチの組み合わせも考えられます。たとえば、GCのCV測定値を、精度は低いが安価なエネルギーメーターの測定値と組み合わせて、後者の潜在的なガス組成を絞り込むことで、精度を向上することです。さまざまなオプションを慎重に費用分析すれば、どのソリューションを採用すべきかが分かります。 

 

2021年までに600万メートル以上が配備されており、ガス測定アプリケーション向けの熱質量技術が増加しています。熱質量流量測定の基本原理は、ガスが流れている間に小型ヒーター周囲の熱分布を測定することです。熱質量計は、ガスの温度と圧力の変動を補正した体積流量、およびメーターとネットワークの診断に役立つその他のガスパラメーター(熱伝導率や拡散率、絶対圧力などのガス特性)を出力します。この技術は、天然ガス、水素混合物、純粋な水素、およびバイオメタンで動作することが実証済みです。 

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図3 センシリオン製の熱式質量ガスメーターモジュールは、コンパクトで費用対効果の高いスマートガスメーターを構築するために使用されています。

測定された熱特性をガスのCVと混合ガス内の水素含有量に相関させることができます。センシリオンの熱式ガスメーターは、すでにネットワークに供給されているガスのCVを2%の精度で推定可能です。図4は、 広範囲の天然ガス組成(水素を添加しない場合)にわたるCV測定精度のa) 実測定およびb)シミュレーションの結果を示しています。破線はOIMLクラスCの精度限界を表しています。比較のために、図4c) 理想的な温度と圧力の補正がされた超音波センサーを使用したシミュレーションも示しています。このシミュレーションには、1,000種を超える実際の混合ガスが使用されました。その中には、H、L、E天然ガス、LNG混合、及びバイオガスが含まれます。図中のバイオガスは、CH4、CO2、およびC3H8の2、3成分の混合ガスとして定義され、後者の2つの成分が共にそのガスの最大30%を占めています。図4a の測定は、さまざまなHおよびLガス(凡例ではTGHまたはTGL)を使用して行われたものです。

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図 4a): Sensirion モジュールの出力に基づく、天然ガス中の発熱量測定の測定精度
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図 4b): Sensirion モジュールの出力に基づく、天然ガス中の発熱量測定の精度のシミュレート
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図4c): 超音波センサーのシミュレーション精度と理想的な温度・圧力補正との比較

おそらく、相当量の水素とバイオメタンがグリッドに注入された場合には、メーターレベルでガスのCVを測定する機能が最も望ましいでしょう。センシリオン製の熱式質量ガスメーターは、最大30%の水素(1%、OIML R140クラスB、図5)を含むLNG混合ガスのCVを正確に推定できます。ただし、水素と混合したガスの場合、同様のパフォーマンスを満たすためには別のセンサーを追加する必要があります。

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図5 センシリオン製モジュールの出力に基づいた、最大30%の水素を含むLNGガスの発熱量測定のシミュレーション精度。

今日の既製品の熱式質量計で測定された熱特性と追加のガス特性(3つのガス特性に基づく相関)を組み合わせることにより、最大30%の水素と混合された広範囲のガスに対して正確な相関関係を導けます。同じように、純粋な水素とほぼ純粋な水素(最大5%のN2またはCO2不純物と混合された95%の水素)でもこれを達成できます。

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図6a): 30%までの水素を含む天然ガスの発熱量測定精度のシミュレーションとMEMSセンサー
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図6b): 30%までの水素を含む天然ガスの発熱量測定精度のシミュレーションと光学センサー

追加センサーの1つは音速での測定を行う超音波センサーです。必要な技術的構成要素がすでに市販されているため、超音波センサーは直感的に使えそうと思えるソリューションです。この組み合わせでOIML R140クラスCの要件を満たすことは可能ですが、互換性のあるガス組成を制限する必要があります。この制限が実際のアプリケーションで受け入れられるかどうかはまだ不明です。 

 

CVとの相関に用いるガス量の理想的な設定は、相互に可能な限り低い相関を示しながら、さまざまなガスのCVと可能な限り密接に関連している必要があります。センシリオンは、熱伝導率と拡散率を補完する作業のために一連のさまざまなパラメータを調査しました。現行のセンシリオン製ガスメーターモジュールと併用することで、クラスBまたはCの精度を達成する正確なCVセンサーを開発するための2つの有望なソリューションを特定しました。 

 

その測定原理は特に有望であり、MEMSセンサーとして(図6 a)、非常に魅力的なコストで実装可能です。2%精度を達成可能で、クラスC のCVメーターを低コストで入手できます。

 

図6 bは、センシリオン製の熱式質量センサーと光学センサーの組み合わせを示しています。このソリューションは、1%精度でCV測定を行うことができるため、クラスBの CVメーターにも適しています。このソリューションは、MEMSベースのソリューションよりもコストが高くなりますが、精度の点でより採用されやすい可能性があります。

 

MEMSと光学センサーを既存のセンシリオン製ガス測定モジュールに統合することで、1つのエネルギーメーターを形成できます。この場合、OIML R137クラス1.5の流量測定を、クラスBまたはCの CV測定と組み合わせて、将来、任意の数のグリッド注入ポイントに対応できる、シンプルで費用対効果が高く、スケーラブルなソリューションを実現できます。

 

まとめ

 

これまでは、ネットワーク内のガスの品質が均一であるため、CV(注入ポイント)と体積量(各消費者地点)の測定を分離することで、満足のいく測定結果が得られていました。しかし、再生可能ガスの注入ポイントを増加していくにつれ、現在のアプローチを継続していると、費用対便益比が不利になる可能性が発生します。現在、エンドポイントから離れた場所でCVを測定するためにクラスAおよびBの精度が使用されていますが、このテクノロジーは、わずかな費用で顧客付近のCVを測定するためのものです。将来の解決策の1つは、センシリオン製測定技術に基づいたダイレクトエナジーメータを使用し、CV測定でOIML R140クラスB(1%)またはC(2%)の精度、体積フロー測定でクラス1.5の精度を実現することです。今後CV測定でクラスBまたはCの精度のダイレクトエナジーメータが許可されれば、センシリオンは、1つのガスメーターで体積量とCVの測定が可能な水素およびバイオメタンと互換性のある経済的なソリューションを提供できます。

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