バイパスでの効率的なガスフロー測定

執筆者:Andries Bosma(Sensirion AG ガスフロー/微差圧事業部製品マネー
ジャー)

 

高い精度とコスト効率を求められる用途でガスフローを測定することこそ挑戦です。ここ数年の経験から、マイクロ熱式フローセンサーは他の技術より優れていることがわかりました。自動車や医療技術など要求の厳しい産業では、マイクロ熱式ガスフローセンサーが製品に決定的なメリットをもたらすと認識されています。これらは、流量が最小の場合でも、高い長期安定性と精度を誇り、このセンサーがコスト効率よく信頼性の高い大量生産に適していることを示しています。

 

ガスフローのどの位置にセンサーを配置すべきでしょうか?また、生産プロセスをシンプルに保ちつつ、最善の結果を得るためには、フローガイドをどのように設計すべきでしょうか?当社の数多くのお客様の用途と製品認定の耐久テストで培った経験が、明確な答えを導き出してくれます。ほとんどの場合、バイパス構造が直接フロー測定のセンサーの配置に適しています。

 

ガスフロー測定の方式


ガスフローの測定には、機械体積式、フロート式、微差圧式、超音波式、コリオリ式、磁気誘導式、熱フロー式の計量といった数多くの方法があります。ガスとセンサーが非接触の計量技術には比較的高価な技術が必要となり、多くの用途で選択肢から外れます。一方、従来の微差圧方式では、オリフィスのセンサー薄膜の物理的なたわみを使用して圧力損失を測定するため、ヒステリシス効果や薄膜の疲労がドリフト問題やゼロ点精密度不足につながる可能性があります。

No alternate text provided
マイクロサーマルの測定原理

その結果、熱式原理に基づいた測定技術が広まっています。これらの中で最もシンプルな熱線流速計では、温度依存抵抗を持つ電気で熱された線の冷却速度でガスフローを判定します。高度な方式では、加熱素子と2個以上の温度センサーを使用して、ガスによる熱の伝達を測定します(右の図を参照)。センサー部品がミリメートルスケールのシリコンマイクロチップに集積されている場合は、「マイクロ熱式フローセンサー」と呼びます。

 

マイクロ熱式フローセンサー


マイクロ熱式センサーは、多くの用途で決定的なメリットをもたらします。小型サイズのセンサーと標準化された半導体製造プロセスの活用で、一貫して高品質な大量生産が可能になります。さらに、スケールメリットによって、ユニットコストが手頃になります。近代的なセンサー素子は、従来の熱線流速計と比較して優れた精度を発揮しつつ、センサー素子のガラスコーティングによって腐食耐性も備わっています。これらすべてのメリットは、多種多様な産業で大いに役立ちます。ここ10年で、主要な産業がガスフロー測定にマイクロ熱式センサー技術を採用する動きとなり、今や要求の厳しい自動車、医療、空調設備の用途で一般的に使用されるセンサーの代表となりました。

 

しかし、ガスと直接接触がある場合、それ自体課題となる可能性があります。流速の測定のみが独特です。これはつまりフロー全体の外挿は配管内の速度分布に依存するため、吸込条件が重要になるということです。センサー直前のチューブの屈曲、チューブ内のさまざまな表面構造、流路内の角やエッジによって、測定値は変わります。さらに、センサー素子を流れるガスフローがひどく汚染されている場合、センサーの汚染問題につながる可能性もあります。

No alternate text provided
流量測定

このような課題に対処する良い方法は、バイパスにセンサーチップを配置することです。オリフィス、ベンチュリ、他の流量制限器で圧力損失を生み出し、バイパス流路にわずかなガスを誘導します(左の図を参照)。マイクロ熱式フローセンサーは、特にごくわずかな流量で高い精度、再現可能性、安定性を保証しつつ、上手に設計された圧力損失素子は、微差圧の結果が吸込条件の変化による影響を受けにくくします。また、バイパスポートの配置も重要です。慣性効果を利用してバイパスフローを最小限にすることで、スマートなバイパス流路を設計し、センサーチップへ汚染の少ないガスフローを保証します。

 

バイパス構造の活用は、製造工程を簡素化する上でも役立ちます。これによって、センサーに関係なくフロー素子を成形して組立できるようになります。厳しい製造許容値を前提とし、事前校正済みのセンサーを最後に設置することで、大体はシステム全体の最終的な校正を省略できます。

 

バイパスソリューションに適した設計


目的の結果を得るためには、どのようにバイパス構造を設計すべきでしょうか?

 

流量制限器


流量制限器の役割は、ガスフローの中でわずかに抵抗を上げて、微差圧を生み出すことです。物理的な話をすると、これは2通りの形で発生します。1つ目は、ガスと流量制限器の表面(フローと平行になっている面)の摩擦によって、フローに沿って線形で圧力損失が増加することになります。2つ目は、端面とエッジによって乱流が発生し、フローに沿って二次式的に圧力損失が増加します。実際、流量制限器は常にこの2つが組み合わされるため、圧力/フローの特性は常に線形要素と二次式的要素を併せ持っています(右の図を参照)。

No alternate text provided
リストリクターのガス流量への影響を示すグラフ

2つのうちどちらの特性が優れているかは、流量制限器の設計で決まります。通常、線形特性は少ない流量では感度が上がってゼロ点が安定し、多い流量では圧力損失が低下するため、好まれています。

No alternate text provided
アレンジされたブレードのデザイン

そのため、一般的な経験則として、圧力損失素子はフローと平行にできる限り大部分で、断面積はできる限り小さい状態で曝す必要があります。従来の円形オリフィスはその役割に特に適していません。蜂の巣構造が理想的ですが、高価になります。隣の図に示すように、ブレードの配置がシンプルですが適切な設計であることが実証されています。これは射出成形で容易に製造でき、フロー/微差圧特性が線形になる傾向があります。

 

バイパス流路

No alternate text provided
バイパスチャンネルのグラフィック

慣性によって、ほとんどの塵の粒子は主流路に残ります。この望ましい効果は、良いバイパス流路設計で大幅に改善できます。バイパスのポートは後ろ向きにして、ガスがセンサーに到達するように逆転させる必要があります。ポートの隣にあるフローガイドはフローを層流で安定させ、センサーの信号ノイズを軽減できることも知られています。結局のところ、ポートは小型にする必要があり、直径0.6 mmが理想的です(右の図を参照)。

 

吸込条件


バイパス構造を使用したフロー測定が吸込条件の変化に影響を受けにくい場合でも、吸込流路は慎重に設計することが重要です。理想的には、配管内のフロー素子のすぐ上流に急激な屈曲やエッジをなくし、配管の直径が急激に変化しないようにする必要があります。その他に、フローの抵抗となる形状(シーブなど)を主な流量制限器のすぐ上流で、配管の直径全体に対して均等に分散させている場合、乱流やその他の望ましくない影響を安定化させるのに役立ちます。

 

センサーの選択


適正なセンサーがあれば、バイパス構造によるフロー測定が最も信頼性が高く、経済的な方式となります。センサーメーカーセンシリオンが制作しているようなマイクロ熱式微差圧センサーは、複数の理由からその要件を満たすために理想的です。

 

  • 部品が小さいので、バイパスのサイズを小さくとどめ、フロー測定に必要なスペースを低減します。
  • フローベースの熱式微差圧センサーは高レベルの感度を備えており、ゼロ点付近で非常に安定しています。こうして、非常に幅広い測定範囲(広いダイナミックレンジや高いターンダウン比)を実現しています。
  • 熱式フロー測定方式にもかかわらず、センサーは微差圧を測定するよう校正されています。そのため、センサーを再校正せずに交換できます。
  • センシリオンは、バイパスでのフロー測定に合わせた特定の温度補償を提供します(詳細については本記事の最後を参照)。 


最後の2点には、さらなるメリットがあります。大抵、主流路の設計が良く、指定された製造許容値を満たしている場合、システム全体の最終的な校正は不要です。センサーが校正済みかつ温度補償済みで提供されること、現代の射出成形での許容値が小さいことは、つまりほぼ圧力損失素子の抜き取り検査だけで十分ということになります。

 

まとめ


高いレベルの精度と再現性でガスフローを測定しつつ、同時にコストを低く抑えるには、バイパスまたは微差圧のソリューションが一般的に好まれます。直接的なフロー測定技術と比較して、外部条件の影響を軽減でき、センサー素子周辺のガスの清潔さも大幅に向上します。さらに、流量が最小の場合でも高レベルの精度を誇る熱式微差圧センサーを選択した場合、ゼロ点付近の測定が非常に正確になります。大抵、微差圧に校正済みのセンサーを適切な温度補償と組み合わせることで、測定範囲全体での追加の校正が不要になります。

 

その他の情報


いわゆる微差圧センサーのマスフロー温度補償は、バイパス構造を使用したガス
フロー測定を簡素化します。全温度範囲でフローを正確に測定できるように、校正が実行されます。その結果、微差圧出力信号をマスフローやボリュームフローに変換するために、追加の温度補償が不要になります。こうして、ユーザーは複数のフロー/温度測定点を利用してバイパスシステムの特性を作成する複雑なプロセスから解放されます。

Related sensors