サーマルフロー測定: 実験室での分析や産業向けの大流量センサー

執筆者: Patrick Reith(プロダクトマネージャー)

 

センシリオンは、実験室での分析や産業におけるサーマルフロー測定の可能性を拡張します。新しい設計により、エンジニアは最大1L/minという大きな液体流量の測定を可能にした大流量センサーの開発に成功しました。このスイスメーカーは、正確な流量測定のための新たな次元に進み、そのポートフォリオを拡大しています。

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センシリオンの設計では、マイクロセンサーチップが流路の外側に配置されています。

コリオリ式マスフローメーターや超音波フローメーターは非常に正確に大流量を測定することができますが、2つの理由により多くのアプリケーションでは選択されません:技術的に高価であることと、設置スペースを必要とするということです。一方、低コストなパドルホイールセンサーは、多くの要件に対して精度が低すぎて、校正された出力信号を提供することができません。さらにユーザーからは、測定ホイールが流路で詰まるということで、プロセス信頼性に欠けるという苦情が聞かれます。センシリオンは、長さがわずか5cm、重量はわずか7gでかつ、通常のセンシリオン品質において大流量を正確に測定できる、実験室での分析や産業用の低コストな液体フローセンサーによりこのギャップを縮めています。

 

スチール製メンブレンで熱的制限を克服

 

ここで、センシリオンは実績のある操作モードに頼ります:微細な発熱体がは、フローによって変形する小さな「熱分布」を液体に加えます。2つの高感度なマイクロセンサーが発熱体の前後の温度を測定し、2つのセンサー間の温度差として現れる熱分布の変形を記録します。マイクロチップは、その値を完全に校正されて直線化された流量に変換し、出力信号として提供します。フローを妨げず、さらにセンサーチップを液体による影響から保護するため、センシリオンはマイクロセンサーチップを流路の外側に配置しています。したがって、流量は「流路壁を介して」測定されます。つまり、ヒーターからの熱も2つの温度センサーからの信号もメンブレンを通過しているということを意味します。その結果、メンブレンの熱特性はセンサーの性能に大きく影響します。

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流路は主にポリマーでできており、メンブレンはステンレスでできています。

最大1000 ml/hの流量に対応するように設計されているLD20-2600B液体フローセンサーでは、センシリオンは熱伝導率、熱容量および熱伝達係数が低いポリマー製メンブレンを使用しています。しかしながら、大流量を測定する場合、熱はより効果的に流路に導かれなければなりません。この理由から、センシリオンの開発者はSLF3x製品ファミリーにはステンレス製メンブレンを採用しました。これにより、SLF3S-1300Fでは、スチール製メンブレンの特性曲線がポリマー製メンブレンのものよりもフラットであるため、最大65 ml/minの広い測定範囲だけでなく、幅広い流量範囲(図参照)も確保できます。最新製品のSLF3S-4000Bは、流体力学的特性のさらなる最適化により、全く新しい次元を切り開きました:この大流量センサーは最大1000 ml/minの流量でさえも測定できます。

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スチール製メンブレンの特性曲線は、ポリマー製メンブレンのものよりもフラットです。

W字型流路断面による流体力学的制限の克服

 

熱測定原理の前提条件は、液体の層流プロファイルです。渦を巻いた流線、あるいは乱流は温度プロファイルを乱し、センサー信号を偽るので、個々の液体層が流れの中で互いに混ざらないようにします。この観点で重要な指標はレイノルズ数(Re)です。これは、流路径、流速、密度および流体の動的粘度という4つの変数によって流れのパターンを定義します。低いレイノルズ数(最大約2300)では層流になり、高い場合(約3000以上)では乱流になります。原理的には、液体の流速が遅い場合には層流プロファイルが形成されやすい一方、流路に取り付けられている液体流量コントローラーやセンサーのような機器が乱流を引き起こします。

 

大流量を正確に測定するためには、高い流速または大きな流路断面積が必要です。しかしながら、どちらの因子もレイノルズ数を増加させ、そのため、乱流を発生させる可能性が高まります。このような流体力学的制限を克服するため、センシリオンのエンジニアは、新しい大流量センサーの開発において、設計上のトリックを採用しました:新しい流路プロファイルをW字型にレイアウトしました。これにより、MEMSチップを流れの狭い側(層流)に配置することが可能になり、本来の測定性能を発揮することができるようになります。

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SLF3S-4000BのW字型流路プロファイルにより、メインのフローから離れた場所に層流を伴う一種の疑似的バイパスが形成されます。

物理的モデリングで影響をさらに抑制

 

新しい大流量センサーの開発中に、センシリオンの開発者は、外乱要因のいくつかが、従来の丸型プロファイルのセンサーよりも、W字型プロファイルのセンサーの測定精度により大きなインパクトを与えることを発見しました。例えば、液体の熱伝導率は温度に依存しているため、液体温度は熱特性だけでなく、時には流体力学的特性も変化させるので、液体温度は測定値に大きな影響を及ぼします。例えば、液体温度が上昇すると粘度は低下し、W字型プロファイルの測定値により大きな影響を及ぼします(レイノルズ数により)。

 

そのため、熱的制限や流体力学的制限を克服したとしても、理想的な測定環境を構築することは困難です。流量計算に及ぼすさらなる影響を考慮するため、センシリオンは社内校正において物理モデルを利用し、あらゆる条件でセンサーが確実かつ正確に機能するようにしています。

 

完全なポートフォリオ:シングルソースサプライ

 

新製品SLF3S-4000B大流量センサーの登場で、センシリオンは新しい測定次元に移行し、nL/minからL/minまでの極めて広い測定範囲をカバーします。SLF3S-4000Bには、SLF3xファミリーである既存の3つのフローセンサー製品群と同じ見た目や感覚で使用できる他にもいくつかの利点があります。ユーザーは、カスタマイズせずに既存のケーブルまたはソフトウェアを引き続き使用して読み取りを行うことができるため、ソフトウェアの再プログラミングは不要です。センシリオンの液体フローセンサーポートフォリオはあらゆる用途を網羅しているので、自動化ソリューションと流体システムを一人のスペシャリストにより運用できるセンサーテクノロジーを調達したいお客様には最適です。私たちはまだ旅の出発点にいるのです: センシリオンの開発者は、さらにハードルを上げ、最大20 L/minの流量を視野に入れています。初期段階の市場調査も既に計画されています。

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