COVID-19が加速させる患者第一主義
ご存知のとおり、今回の流行は世界中の病院に試練をもたらしました。病床不足、スタッフへの大きな負担、感染の恐怖から、手術や治療は延期されることになりました。患者たちは、医局や病院を訪れることに慎重になり、可能であれば遠隔治療予約を利用するようになりました。
しかし、医療システムには将来的な疾病への対処以外にも考え直すべきことがあります。慢性疾患を持つ患者が定期検診や治療を受けるための通院回数を減らすことは、医療スタッフの効率が上がって治療コスト全体の減少に役立つなど、変革の重要部分となります。デジタルヘルパーは、看護師と医師の間の協力および管理を強化し、薬物投与や治療を監視することでさらなる安全性を提供し、治療計画の説明や患者の容体の変化への素早い対応をデータ主導で実現することで、重要な役割を果たしています。
なお、COVID-19の経験によって今後も近代医療ソリューションの開発は加速し続け、障壁はなくなっていくことでしょう。新しいポータブル設計やウェアラブル設計によって、患者たちはリモート監視による個別で柔軟性のある治療オプションを駆使して、自宅で安全に自身の状態を管理できるようになります。
マクロ経済の観点では、デジタル化は電子部品の価格低下につながります。これによって、新しい設備の価格適正化のみならず、医療機器メーカーは新たな付加価値を与えることで新しい設計を考案できるようになります。一例として、患者や医師のために実施中の治療についての一括フィードバックが挙げられます。たとえば、病院の治療と診断の電子健康記録(EHR)は、いつか在宅医療でも必須となる可能性があります。
別の要因としては、健康保険においてその傾向が強くなっていることがあります。医薬品会社や保険会社は、全額支払いや払い戻しを受け付けるために、治療法(持続陽圧呼吸装置 - CPAPなど)や薬物の使用実績や効果に意識を向けていました。たとえば、吸入気流プロファイルや投薬作動を測定するスマート吸入器 では、すでに薬物が正しく投与されたことを実証できるようになっています。まとめると、このようなデジタルデータのおかげで、患者、介護士、支払者に役立つ医療分野のモノのインターネット(IoMT)を構築できるのです。
推進力としてのバイオ医薬品
個別または参加型の患者ケアにかかわらず、バイオテクノロジーの精密医療および進歩もまた、セルフケアのトレンドに影響を与えています。従来の薬と比較して、高価な薬物を使用すれば、副作用が少なく、対象を絞った方法で疾患を治療できます。
化学的に合成した薬物とは違い、バイオ医薬品は微生物、哺乳類細胞、植物由来の成分が複雑に構成されて作られています。たとえば、がん細胞の成長を抑える血液の細胞形成、インスリン、抗体を刺激するタンパク質が含まれます。これらの高価な薬物は、自己免疫疾患、心血管疾患、糖尿病、神経疾患など、これまで不治の病だったその他の疾患を治癒できる可能性も高めています。
しかし、これらバイオ医薬品は非経口で投与されるため、まだあまり受け入れられていません。分子のサイズが大きいため、静脈注入が最も普及している方式です。大量投与の場合は臨床サポートが必要になり、すでに高額の生産コストに治療コストが上乗せされることになります。
別のデメリットとして、従来の薬物投与機器では不可能な大量かつ粘性のある製剤となり、取り扱いが複雑という点です。一部の新薬では、開始時間に関する特定の投与タイミングや流量が要求されることがあり、凍結乾燥状態で再構成が必要になる薬物もあります。これらの投与に関する課題を克服するために、新しい薬物投与メカニズムが必要なのです。
接続型大容量インジェクター
ここ数年は、装着型投与システム、パッチポンプ、ウェアラブル薬物投与機器とも呼ばれる大容量インジェクター(LVI)が、皮下注射での静脈注入に代わって使用されています。これは使用時の痛みが少なく、患者自身が自宅で慢性疾患を治療できます。特に、充填済みの薬物と機器の組み合わせには利便性と信頼性があり、外来患者治療の代わりになります。
ウェアラブルスマートインジェクター
- 患者が自宅で治療を受けられる
- 治療法をリアルタイムかつリモートで監視できる
- 患者、医療提供者、保険会社の労力とコストを軽減する
大容量かつ粘性もあるため、バイオ医薬品の投与は制御、確認、追跡が必須です。1時間あたり1.5 ~ 300 mlの流量範囲に対応する自動薬物投与システムは、一定時間に及ぶ薬瓶からの継続的な薬物投与を保証します。また、大容量インジェクターも、使用者が使用時点で凍結乾燥された薬物を再構成して充填し、すぐに投与できるようになっています。
機器設計の挑戦
インスリン以外の薬物向けの大容量インジェクター市場は、この10年で急速な成長が見込まれています。50種類を超えるウェアラブル製品と、大容量に対応した10種類を超える薬物と機器の組み合わせが商品化、あるいは開発中です。販売する機器に薬剤を含めるか含めないかにかかわらず、粘性のある製剤の取り扱い、ユーザビリティの最適化、機器の小型化と低コスト化に関わる改善など、薬物投与業界は数多くの設計上の課題に直面しています。その結果、ほとんどの大容量インジェクターが使い捨て部品と再利用可能な部品で構成され、環境面で合理的な形になりました。バッテリー、モーター、読み出し電子機器、接続モジュール、ディスプレイは再利用可能ですが、針、薬物容器、パッチ、接液センサーは使い捨てです。
大容量インジェクターが既存の薬物向けにも設計できることは、最近の出来事でも証明されています。たとえば、2015年のAmgenのNeulastaのように、薬物の特許期間が過ぎても、新しい装着型インジェクターが使用できれば、薬物の有効期限やAmgenの関連事業の拡大につながります。このように、医薬品および医療業界における新しいライフサイクル管理戦略が、新しい収益源を生み出すのです。
小型コスト効率のよい使い捨てセンサー
異なる特性を持ったさまざまなバイオ医薬品があるため、大容量インジェクターの設計者は、信頼性と精度の高い機能と高度な使いやすさを個々に保証する必要があります。今まで、針の位置取りや身体への装着について表示、音声、触覚のいずれかで指示する機器を搭載していました。閉塞などの障害も、ある程度は検出できますが、現時点では間接的な方法のみで、誤検出の可能性が残っています。
従来のセンサーでは不可能だった、直接的な流量測定や投与量、双方向測定機能はさらに重要です。センシリオンのセンサーソリューションを活用すれば、小型使い捨ての液体フローセンサーを大容量インジェクターに実装でき、リアルタイムで皮下薬物投与を制御、確認、追跡できます。これによって、流量と投与量の面で正確に投与でき、コスト効率がよく直接的な方法で閉塞や直線内の空気といった障害を自動的に検出できるようになります。
接続型大容量インジェクターに実装された次世代センサーは、患者がスマートフォンアプリで投与を監視できるだけでなく、家族や両親、親戚など患者をケアする関係者と遠隔でコミュニケーションを取れます。看護スタッフ、医師、医薬品企業(研究目的)、健康保険業者(実績確認)は、投与と機器の状況について最新情報や測定値を受け取ります。プログラム可能な機能では、皮下薬物投与プロセスの対応や最適化も可能です。注射機器に問題が見られる場合も、フローセンサーは患者や関係者に安心を与えてくれます。つまり、小型のスマートセンサーを実装すれば、治療結果、患者の治療法順守、生活の質が向上するということです。小型液体フローセンサーは、前述の市場トレンドに対応して、優れた費用対効果を実現します。
小型液体フローセンサーでLVIが可能なこと
- 直接的かつ双方向で流量を測定して、投与液量をリアルタイムで確認できる
- システムパフォーマンスを監視して、信頼できる故障検出を保証する
- 治療を監視するためのソリューションを接続して、すべての関係者が追跡で
きる
センサー、ポンプ、その先へ
最後に、LVIを設計するにあたり、全体的な視点で液体フローセンサーとポンプメカニズムを確認しておくことを推奨します。サイズ、性能、実装のしやすさ、製造可能性、コストの面で理想的な流量制御システムの設計を特定するために、医療機器メーカーは考えられる最適な組み合わせを目指す必要があります。
通常は、特に機器メーカーの独自の要件や関連する知的財産が関係している場合、フローセンサーに関係なく、ポンプ技術を先に選びます。特にポンプ性能にさらなる強化、故障検出、復元力などセンサーに期待するものすべてが必要になる場合、先に選んだポンプを液体フローセンサーと組み合わせることが難しくなる可能性があります。ポンプ別の動作原理、流量プロファイル、機械設計、流体コネクタによって、作業がさらに複雑になる場合もあります。
センシリオンは、Quantex Arcの使い捨てマイクロポンプに小型フットプリントの液体フローセンサーを組み込み、フロー検出に関する幅広い経験を生かして、設計研究テストを行いました。その結果、さまざまな流量域で一定の流量を供給し、消費電力の少ない非常にコンパクトなフローコントローラーが生まれました。
センシリオンの技術は、他のメーカー製のポンプとも相性よく機能します。単なるコンセプト研究ではありますが、さらなる機能強化とカスタマイズの余地があり、さまざまな機器の要件について検討できる機会にもなります。我々は心躍る旅の出発点にいるのです。
テスト設計
テストに使用された軽量インライン型ポンプ「CS-3」は、チューブに接続し易いタケノコ継手を備え、1時間あたり最大100 mlの流量での正確な微量投与に理想的です。わずか0.5 cm3のスペース(12 x 6 mm)しか必要としないSensirionの液体フローセンサーは、ミリ秒単位の高速な応答時間と直接的かつ双方向での流量測定に対応しているため優れてい
ます。