個別化医療における課題

執筆者:Dr. Moritz Kneipp(液体フローセンサー事業部製品マネージャー)

現代医学は、世界の人々の生活の質を大幅に改善してきました。ポリオ、梅毒、結核、ペストなどの病気はほぼ根絶され、完全に治療または治癒可能なものとなっています。現代医学の次なるマイルストーンは個別化医療です。この新たな領域では、幅広い人々を対象にするのではなく、診断その他において個人に焦点を合わせています。個別化医療では、個人の疾病パターン、患者の体質や性別、ならびに治療法や医薬品に対して結果として生じる影響を考慮に入れます。その狙いは、患者個々人に合わせた治療法を導き出すことであり、それは必要であれば、病気の進行に合わせて加減したり微調整したりできます。

こうした専門治療を可能にするには、さまざまな現代科学技術を組み合わせる必要があります。例えば、フローサイトメーター、DNAシークエンシング、および生体機能チップの技術を用いれば、オーダーメイドのがん治療計画を策定することも可能になるのです。

分析および診断用のフローサイトメーター

フローサイトメーターは、高スループットの細胞分析に使用されます。この種の機器では、細胞が分析ユニット(電位検出器や蛍光検出器など)の内部を高速に流れます。記録される電圧信号や光信号は、細胞の形状、サイズ、または色(あるいはそのすべて)によって異なります。このようなセルソーター技術を用いることで、求められる特性を有する細胞の認識・分離が可能になります。

フローサイトメーターは、がん患者の血中循環がん細胞(CTC)に関して特別な注目を集めました。CTCは患者の血液から分離できるため、複雑で侵襲的な従来の生体検査の代わりとなり、侵襲性を最小限に抑えることができます。これらの液体生体検査は、患者の痛み、全体的なリスク、総コストを抑えることができます。原発腫瘍の位置や患者の体質によって、従来の手順が取れない場合に、CTCを使用して、一通りの診断に必要になる重要なデータを収集できます。

1869年に初めてがん患者の血液で発見されたCTCは、通常は原発腫瘍から発生し、血流やリンパ系に漏出します。CTCは、がんの初期段階でも血液サンプルで発見できます。CTCは全血液でmLあたり1~10個であり、数百万の白血球と数十億の赤血球と比較しても濃度が非常に低く、これらを検出して分離するには高感度の
フローサイトメーターとセルソーターが必要になります。

DNAシークエンシングおよび特性評価

CTCの検出および分離に続いて、次のステップは特性評価です。この特性評価は分子レベルまで対応できる必要があり、1つのがん細胞のDNA配列まで決定できます。信頼性のあるデータを迅速に生成するために、次世代シークエンシング(NGS)を使用します。NGSは、サンガーシークエンシングなど従来のシークエンシング手法と比較して大幅に向上したスループットで、DNAのヌクレオチド配列を記録できます。DNA配列からがん細胞やCTC特有の変異についての情報が得られるため、疾患進行の予後診断が可能となり、適切な治療法を計画する上で役立ちます。NGSとCTCを組み合わせれば、従来の侵襲的な生体検査の代替手段となり得ます。

生体機能チップの技術

次のステップは、生体機能チップ(OOC)の技術の採用になります。OOCは、ハイテクな細胞培養です。従来のペトリ皿で成長する2次元細胞培養には、組織や臓器の生体状況とは大きく異なっているという難点があります。生体状況に近づけるために、3次元細胞培養が開発されました。この3次元培養では、細胞があらゆる方向に成長し、実際の臓器に近似した細胞間および細胞基質の相互作用を含む微小環境を作り出すことができます。よりいっそう現実的なモデルを作るために、物理的および化学的なストレスや作用も考慮する必要があります。心臓や肺のような組織は、動いているからこそその目的を果たせる臓器の代表例です。この組織の動きによって、細胞や細胞外基質にせん断力が発生します。例えば、OOCの肺では生体の肺に近似した動きのパターンを作り出すために、真空技術を活用できます。複数の組織型を結合することで、全身の生体機能チップモデルを作成して、治療法の代謝効果や生理的効果を正確にシミュレーションして評価することもできます。このように、OOCの活用は個別化医療の分野を進歩させるだけでなく、研究開発における動物実験の必要性を削減することもできます。

検出での高い精度

これらの技術や用途を組み合わせることで、計り知れない可能性が生まれます。その可能性には限りがないように思えます。しかし、上記の用途全てに共通する課題があります。逆説的に、それらは部分的に共通な長所でもある、高い精度です。患者に信頼できる有効な結果を保証するために、すべての内部プロセスやパラメーターを正確に定義して監視し、制御する必要があります。精度に関わるこの高い要件と、サンプルが極めて小さいこともあるため、プロセスの監視と制御には高度なセンサー技術が必要です。

センシリオンの製品ポートフォリオには、このようなセンサー技術があります。センシリオンは、環境およびフロー検出ソリューションの一流サプライヤーです。製品ポートフォリオには、CO2、PM2.5、温湿度のセンサーに加え、微差圧センサーや液体およびガスフローセンサーを取り揃えています。このようなセンサーソリュー
ションの一例として、液体フローセンサー「LPG10」があります。わずか10 x 10 mm2のフットプリントで、いわゆるポイントオブケアといった最小レベルの医療機器にまで容易に実装できます。優れた生体適合性(接液面材質はガラスのみ)の他に、ごく少量の流量でも高精度かつ高速なマイクロ熱量測定原理によって、「LPG10」は上記用途に最適なソリューションとなっています。

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